『グレイテスト・ショーマン』他の作品を比較しよう!


数多くの作品を彷彿とさせる

この映画音楽の興味深い点は、映画の舞台設定が1800年代中頃であるにもかかわらず、音楽が非常に現代的な2010年代のポップスに近いということです。さらに曲の振り付けも現代風にアレンジされています。ここで比べてみたいのが、同じようにサーカスもののミュージカルとして挙げられる、1970年代に人気となり2013年に再演された『PIPPIN』(ピピン)という作品です。こちらはあのカール大帝の息子を主人公とした中世ヨーロッパを舞台にした物語ですが、作品自体は歴史的な精巧さはほとんど感じられない作りになっています。楽曲を手がけたのは大人気ミュージカル『Wicked』(ウィキッド)やディズニー作品などで知られるスティーブン・シュワルツで、子供から大人までが親しめる楽曲に仕上げられています。更に振り付けを手がけたのが『キャバレー』や『シカゴ』などの人気作品を多く手がけ、フォッシースタイルを確立させたボブ・フォッシーで、彼の振り付けは当時の流行を創り出していました。『グレイテスト・ショーマン』は『PIPIN』同様、作品の舞台となる時代を意識しすぎず、サーカス団員を中心とした現代風のパフォーマンスで観客を魅了するタイプの作品であると言えます。

さらに、この映画を観ていて、筆者は様々な場面で私は数多くのミュージカル作品を連想しました。例えば、最も迫力のあるパフォーマンスから映画が始まるという演出は『ラ・ラ・ランド』的でもあり、そこから過去に戻っていくという演出は、ブロードウェイ・ミュージカルの『ウィキッド』を彷彿とさせます。幼いバーナムがパンを盗むシーンはヒュー・ジャックマンも出演していた『レ・ミゼラブル』のバルジャンを連想させます。これ以外にも、シルクハットや馬車など、バルジャンを思い出させる場面は何度も登場します。バーナム一家が屋上で夢について語る場面はどことなくミュージカル『ファインディング・ネバーランド』を思い起こさせますし、バーナム夫婦の屋上でのパフォーマンスやその後のサーカスの象の存在はミュージカル映画『ムーラン・ルージュ』を思い出させます。劇場運営のむずかしさ、という物語はミュージカルアニメ映画『SING』を想像させますし、すてきなドレスを着た歌姫リンドとそれを影から見つめるバーナムの構図はどことなく『オペラ座の怪人』的な印象を受けました。これ以外にも、ザック・エフロン演じるカーライルが『雨に唄えば』のあのアイコニックなダンスを思い起こさせる振り付けがあったりと、多くのミュージカル作品のオマージュともいえる演出が作品の随所で確認できました。

また、ミュージカル作品以外の作品もこの映画は思い出させてくれました。例えば、ミシェル・ウィリアムズが出演している影響もあってか、ディズニー映画『オズ はじまりの戦い』が頭の中をちらつきました。この映画は多くの方が知っているL. F. ボームの『オズの魔法使い』をモチーフにした物語で、主人公はのちに偉大な魔法使いオズとなる、サーカス団のニセモノ魔術師オスカーで、ウィリアムズはオズの想い人となる南のよい魔女グリンダを演じていました。この作品の原題が “Oz the Great and Powergul” で、タイトルに「グレート」が入っている部分も、さらに共通項としてあげられますね。

ガストン・ルルーの小説『オペラ座の怪人』では、主人公がこの映画で言うところのフリークだったためにサーカスで見世物になっていた、という描写がありました。同じようにサーカスものの映画といえば、この映画の主人公であるバーナムから大きな影響を受けて作られた1952年公開の映画『地上最大のショウ』もどことなく頭を過ぎります。この52年の映画ではサーカスの公演監督兼経営者と、ザ・グレート・セバスチャンと呼ばれるパフォーマー、そして空中ブランコ乗りの女性との三角関係が描かれています。『グレイテスト・ショーマン』では、公演の監督や経営に関わっていたカーライルと空中ブランコ乗りのアンのロマンスがとても美しく描かれています。中でも、二人のデュエット「リライト・ザ・スターズ」はロープを使った非常にアクロバティックな名パフォーマンスで、映画『イングリッシュ・ペーシェント』を思い出しました。

 

時代を彩る文学作品
Everett Historical / Shutterstock.com

この映画の舞台となっているのは19世紀中頃ですが、それを表現するための工夫と

して、文学作品を連想させる場面が挿入されていたように私は感じました。バーナムとチャリティーの子供時代のエピソードは19世紀に活躍したイングランドの作家チャールズ・ディケンズの作品群や、エミリー・ブロンテの『嵐が丘』を思い起こさせました。先述したミュージカル作品としても有名な『レ・ミゼラブル』19世紀前半のフランスを舞台にした物語です。

そしてバーナムの娘達が読んでいた『親指トム』の物語は、イギリスで多く語られていた民話で、演劇のモチーフなどにもされましたが、18世紀半ばから19世紀半ばにかけて、子どもたちに読むお話の定番となった物語です。これは、時代を表象するだけでなく、バーナムの経営するサーカス団の最初の一員となったトム・サム将軍の伏線としての役割も果たしていました。

 

映画を見た皆さんはどんな感想がありますか?

 


『グレイテストショーマン』【黒木の映画レビュー】
その1→『グレイテスト・ショーマン』作品を通して

その2→『グレイテスト・ショーマン』の役者について

黒木りりあ 登録者

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