『グレイテスト・ショーマン』作品を通して


本物達の作る壮大なニセモノ

この映画には、これといったドラマティックなストーリーがあるわけではありません。たくさんのキャラクターが登場しますが、彼らがどういう人なのか、といった物語も語られません。差別は悪いことだ、と教えてくれるわけでもなければ、多様性のすばらしさを語っているわけでもありません。にもかかわらず、心打たれ、感動し、熱狂し、最高に楽しむことが出来、鑑賞後には満足した気持ちになれる。『グレイテスト・ショーマン』はそんな映画です。人々がこの映画を観て満足した気持ちになれるのは、ひとえに傑出した、とても素晴らしい曲の数々と、出演する本物の俳優達によるすばらしい演技のおかげでしょう。まさに、主人公のバーナムのつくったサーカスを体現した作品だと言えるのではないでしょうか。

 

映画を彩った素晴らしすぎる音楽

この映画の魅力はなんと言っても音楽。映画本編よりもサウンドトラックの方が名作なのではないかと思えるほどの出来映えです。反対に、この名曲の数々を上手く演出で料理できなかった部分も多かったように感じたので、その部分は非常に残念でした。

今回音楽を手がけたのはベンジ・パセック&ジャスティン・ポールのコンビです。昨年のアカデミー賞でも話題になった『ラ・ラ・ランド』の楽曲の作詞や、ブロードウェイ*¹で大人気となったミュージカル『ディアー・エヴァンハンセン』の楽曲を手がけ、EGOT*²のうち、グラミー賞、アカデミー賞、トニー賞をすでに受賞するなど、現在飛ぶ鳥を落とす勢いの最も旬な作詞作曲家です。そんな二人の曲の中でも最も観客の心に響いたのが主題歌の「This is Me」。近年アメリカで叫ばれている人種差別や人権、性差別などの問題に直面する人々の応援歌として既に認知されるほどの人気を誇っています。恐らく、今年の3月に発表されるアカデミー賞も受賞するでしょう。更に、この映画音楽の興味深い点は、映画の舞台設定が1800年代中頃であるにもかかわらず、音楽が非常に現代的な2010年代のポップスに近いということです。さらに曲の振り付けも現代風にアレンジされています。作品の舞台となる時代を意識しすぎず、サーカス団員を中心とした現代風のパフォーマンスで観客を魅了するタイプの作品であると言えます。

*¹ブロードウェイ…アメリカニューヨーク州のマンハッタン島にある劇場の建ち並ぶ通り。ミュージカルの本場の代名詞としても使われる。

*²EGOT…エミー賞(テレビにまつわる賞)、グラミー賞(音楽にまつわる賞)、アカデミー賞(映画にまつわる賞。アメリカでは一般的にオスカーと呼ばれている)、トニー賞(ミュージカルにまつわる賞)の4つをまとめた呼び方。アメリカのエンターテイメントにおける4大大賞とされている。

 

集められた最高の役者たち

音楽の次にこの作品を素晴らしい作品にしているのが、魅力的な俳優陣です。主演は、多数のミュージカルの舞台に立ちトニー賞受賞経験もあり、映画『レ・ミゼラブル』でもその実力を見せつけたヒュー・ジャックマン。その脇を固めるのが、ミュージカル『キャバレー』に起用され、映画では歌声を初披露したミシェル・ウィリアムズ、2010年代に世界中のティーンを熱狂させた『ハイスクール・ミュージカル』に主演したザック・エフロンや、歌にダンスにアクションと多彩な才能を持つゼンデイヤ。そしてブロードウェイで活躍するミュージカル女優キアラ・セトルと、実力を持った最高の役者達がこの作品には集結していて、作中で最高のパフォーマンスを見せてくれています。

ミュージカルの難点を秀逸な演出でカバー

ミュージカル映画の中で大きな不安要素となるのが、歌と口元の動きです。多くのミュージカル映画では事前に歌をレコーディングして、その後に演技部分を撮影する際にレコーディングしてある歌を流し、それに合わせて口パクする、という手法が取られています。ただこのやり方の場合、役者達は口を合わせることに必死になるあまり、演技に100パーセントの力を発揮できないなどの欠点がありました。反対に、口を合わせることをあまり気にせずに演技をした場合、あとから映画を観た人々に口パクを指摘され、その点に関してマイナスな評価がされることも多くありました。この映画では、巧みに影を用いる演出でその難点をカバーしていたように思います。かっこいいシルエットの映像を多用することで口元が写らなかったり、口元に影があることで口の動きが分かりづらくなっていたり、遠くから撮影することで口の動きを分かりづらくし、口元がアップになる場面ではあまり口が動かさなくてもよい歌詞になっていたりと、見事にカバーしていました。また、『レ・ミゼラブル』のように、演技の撮影と歌の撮影を同時に行なった作品も近年では目立ちますが、この演出も一部では取り入れていたように思います。歌と演技を同時に撮影する際には役者のアップの映像になってしまうことが多いので、それを不自然だと考える人も多いのですが、口パクの部分と上手く合せることで自然な映像にしていたように思います。

ただ、この演出で残念だったのは、作品内で本物のパフォーマンスとして登場した、歌姫ジェニー・リンドによる歌唱シーン。唯一の本物、という設定にもかかわらず、演じている女優さんと謳っている女性が別人だったために、口パクであることが際立ってしまっているように感じました。(演技の部分と歌の部分は声とアクセントが若干違うために、より浮いてしまっていたように思います。)本物とニセモノがひとつの大きなテーマとなっている本作の中では、皮肉としては秀逸な場面として仕上がったのではないでしょうか。


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黒木りりあ 登録者

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