『マダム・イン・ニューヨーク』が日本で受け入れられた背景

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文責:高橋綾子


キーワード: 起業ブーム

特に女性が趣味や資格を活かして自宅で開業することを「プチ起業」や「ママ起業」として取り上げられることも多い。家庭との両立などがメリットとして語られることが多いが短期間で失敗する例も。


 世界最大の規模を誇るインドの映画産業は、アメリカのハリウッドになぞらえて「ボリウッド」とも呼ばれます。ストーリーの合間に突然歌と踊りが始まったり、その独特な魅力が海外にもファンを生み、日本でも「ボリウッドブーム」が起きたことがありますが、制作される大部分はインド国内向け映画です。そんなインド映画の中で2012年公開の「マダム イン ニューヨーク」はインドだけでなく欧米諸国でもヒット、2014年に日本で公開されると特に女性の共感を呼び、話題になりました。

2月24日に亡くなったインドの女優シュリデヴィさんは映画大国のインドで300本以上の映画に出演した大女優でした。シュリデヴィさんが演じていたのは模範的な良妻賢母のシャシ。夫と思春期の娘には「家のことしかできない」「英語も話せない」と軽くみられがちですが、ひたすら家族に尽くして生きています。彼女が姪の結婚式の手伝いの為に一人でアメリカへ旅して家族に秘密で英語教室に通うことで少しずつ自分に自信を持ち始めるというストーリーです。

監督はガウリ・シンデーさんというインドの女性監督。色とりどりのサリーに身を包んだインドの女性たちやお洒落なニューヨークの風景など美しい映像がちりばめられた笑って泣けるコメディですが、「普通の主婦が主人公」という設定は若い人の興味を引かないかも知れません。しかし「インドの文化」や「言葉を学ぶということ」「家族のあり方」など様々な視点から楽しむことができる映画です。

 

「家族の映画」として観る

「何も出来ない」と思われているシャシですが彼女の作るお菓子は評判が良く、知人やご近所さんから注文が来るほど。夫も彼女の料理にしっかりと胃袋を掴まれているのですが、彼女の目の前で娘に「しっかり勉強しないなら学校をやめて家で菓子作りでもしていなさい」と口走ったり、親戚が集まる席で「妻は菓子作りしかできない」とにこやかに発言するなど、妻を傷つけていることに気がついていません。彼なりに妻を愛してはいるものの「妻は家族の為に尽くすのが本分」「妻が家の中でしている仕事など、取るに足らないつまらないもの」そして「この状況に妻も満足しているはず。何故なら彼女は何もできないはずだから」という思い込みからなかなか抜け出すことができないのです。

シャシの方も夫に面と向かって反論することはありません。時々不満を訴えようとしても受け流されてしまいます。「配偶者にストレートな言葉で意見を伝えない」という態度は彼女が英語を学び自信を手に入れてからも変わらなかったように見えます。この映画がヒットしたのは女性の常に家族に尽くすことが当然とされる家庭での役割や、要望や不満を表現できないシャシの姿に自分を重ねた女性が多かったからかも知れません。

 

「社会を写す映画」として観る

また、「マダム イン ニューヨーク」 が日本で公開された2012年頃、日本では女性を労働力として活かすべきという風潮が高まりつつありました。働き方の多様性も求められるようになり、特に女性が趣味や特技を活かして小規模な個人事業主として起業する「起業ブーム」や、簡単にハンドメイド作品を出品することができるハンドメイドサイトが注目を浴びていました。中小企業基本法の第13条(創業の促進)に「女性や青年による中小企業の創業を促進する」という一文が加えられたのも2014年のことです。シャシは勇気を振り絞って申し込んだ英語教室の自己紹介でお菓子を作って売っていると言った時、講師から「貴女は事業家ですね(entrepreneur)」と言われて驚きます。そんなふうに自分を表現されたことがなかったからです。可能性にチャレンジすることと、それを誰かに認めてもらうこと。そういった欲求を、特にインターネットを通して追及しやすい空気が生まれつつあった社会的な背景も「マダム・イン・ニューヨーク」がヒットした理由の一つかも知れません。

もっとも、起業しても上手く行かずに短期間で廃業したり、サイトへの出店が充分な収入に結び付かなかった場合も多くありました。また仕事のレベルや価格の相場、背負うリスクなどをあまり考えずに簡単にビジネスを始めてしまう人々への懸念からこうした一連のブームは賛否両論で今なお大いに議論の余地が残っています。

 


「マダム イン ニューヨーク」公式ホームページ

http://madame.ayapro.ne.jp

経済産業省 女性活躍推進基盤整備委託事業 女性起業家等支援ネットワーク構築事業

http://joseikigyo.go.jp

ayako_takahashi 登録者

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