(写真・文 鹿島ジル)
まだ雪のちらつく日。こども用医療ウイッグ(かつら)を販売しているお店、Dream Assortさんの展示会に代表の新井舞さんを訪ねました。
新井さんは娘さんの脱毛症をきっかにこの仕事を始めました。脱毛症とは字のごとく毛が抜ける病気で一ヵ所に発生する場合は単発型、数ヵ所に発生する場合は多発型といいます。これは免疫の異常で起こる病気で誰におきてもおかしくない病気だそうです。また小児がんの放射線治療の副作用でも脱毛が発生する場合があります。
娘さんの一言で一念発起!
外見に現れる病気のため娘さんの症状を見ていて母親としても辛かったそうです。誰にも悩みを相談しづらい中、ブログを始めてみると最初はアクセス数も数えるほどでしたが、続けていくうちに同じような立場の親からたくさんの共感の声が届きました。
そんなあるとき娘さんから「私がつらいのは病気のことじゃなく、ママが泣くことだよ」と言われて、このままじゃいけないと一念発起。ブログへの意見の中に「こども用のかつらが合わない」という意見が多かったため「じゃあ自分達でつくってみよう」ということになり、こども用医療ウイッグの製作にとりかかることになりました。
始めはウイッグをどうやって製作していくかもわからない状態。関係しそうなところへ問い合わせをしましたが、返事はほとんど返ってきませんでした。100件送っても返事はやっと1件だけ。けれどそのたった1件、目にとめてくれた方が製作を検討してくれることになりました。
制作には苦労が……
新井さんと製作会社さんは、こども用ウイッグの製作プロジェクトを始めました。製作会社の社長さんもお子さんが小さい時に病気での入院歴があり、新井さんと同じような思いを抱かれたそうです。
こども用ウイッグの前例はほとんどなく試行錯誤の連続でした。肌触りが悪いと嫌がって、全く被ってもらえません。何度も打ち合わせや試作品の製作を行いました。なおかつ安くて使い勝手の良いものが求められました。人毛で作るウイッグはとても高価で数も作れません。最終的には織物をベースにして化学繊維を加工した髪の毛を開発しました。
私も手にしたサンプルは驚くほど自然でさわり心地がよく、見た目も普通の頭髪とほぼ変わりません。なおかつ簡単に装着できるタイプでした。
従来の製品では娘さんが、嫌がってすぐ外してしまったそう。しかしこの製品は微調整を重ねる前から、つけ心地も自然でとても高評価だったそうです。またオーダーメイドでないため購入価格も安くなっています。化学繊維を使っている為、人毛の製品よりもメンテナンスも簡単で丈夫で長持ちします。こうして脱毛症や、小児がんの放射線治療で髪が抜けてしまった子供達への、ウイッグが生産できることになりました。その喜びをこども達と共にする気持ちを合わせて「ファン・キッズ・ウイッグ」と名付けられました。
アピアランスケアが広まって欲しい!
今、新井さんはインターネットで注文販売をしていますが、総合的なアピアランス(外見)ケアのお店を作りたいと思っています。例えば、試着品を付けたりさわったりして五感でないと体験できない感触も感じて欲しいそうです。また脱毛症に限らず、さまざまな見た目で悩む病気の方々が集まり、悩みを語る場所もつくりたいと思っています。
最後に、こども達に向けて新井さんからのメッセージです。
今は多様化も進んで、自分のしたいことが発信できる時代。でも自分を表現するのが苦手な子もいると思います。そんなこども達に「あなた達は間違っていない。あなたは大丈夫」と言いたい。
新井さんも高校時代に学校に行けなくてつらい時期があったそう。
「あなたと同じ思いをしてきた大人達があなた達を待っている。今のあなたは決して否定されていい存在じゃない。いつかはいいことがきっとある」
病気や障害を持った人が見た目で悩まないようになるよう、新井さんはまだまだお仕事がんばるそうです!
参考URL
ファン・キッズ・ウィッグ 販売ページ
新井さんブログ