映画『バービー』と考える「女性の身体の権利」

バービーにもなれないものがある？

バービーのスローガンは「あなたは何にでもなれる」ですが、そんなバービーでもなれないものがあります。それは、「妻」や「母親」です。

バービーは結婚もしなければ妊娠もしません。ウェディングドレスは着られます。ですが、指がくっついているので左手の薬指に指輪をはめられません。これは、映画『バービー』に登場するバービー達も一緒です。誰も結婚していないし、指輪もしていなければ、妊娠もしていません。

しかし、バービーランドには妊婦が一人います。彼女の名前は、ミッジといいます。

実際にミッジの人形は1963年にバービーの親友として、デビューしています。そしてその翌年1964年にケンの親友としてアラン人形が誕生します。アランも映画『バービー』に登場、ミッジとのつながりは一切触れられていません。ミッジとアラン人形は時には恋人同士として、時には夫婦として販売されていました。1990年代にミッジとアランの結婚式の様子を収めた人形が当時販売されました。

「妊婦バービー」（本当はミッジ）

物議をかもしたのが2002年に発表された「子供を宿したミッジ」の人形です。通称「妊婦バービー」と呼ばれたこの人形は、実際におなかが大きく膨らんでいます。おなか部分はマグネット式となっていて、取り外すことが可能になっていました。取り外したおなかには赤ちゃんが入っており、妊娠・出産を経験できるように作られています。

この妊婦のミッジ人形は、発売されるなり大きな批判にさらされました。「ティーンエイジャーの妊娠を助長する。」「彼女は子供を持つには若すぎる。」「女性に母親の役割を押し付けている。」といった声が上がったのです。また、販売当初は夫であるアランがパッケージに含まれていませんでした。そのため「若いシングルマザーが増えてしまう」などとも非難されました。アメリカの大手スーパーでは、客からの「不快だ」という苦情を理由に、この人形は棚から排除されたほどでした。

多くの批判を受けて人形は改められました。パッケージにはアランと子供の写真が添えられるようになったり、アランが子供をベビーカーに乗せて散歩する人形が販売されたり、としばらく展開は続きましたが、次第に消えてしまいました。2013年にミッジの人形は復活しました。ですが、アランとは無関係の存在としての販売となりました。

バービーと女性の身体にまつわる権利

映画『バービー』に登場するミッジは、妊婦のミッジ人形をモデルとしています。しかし、悲しいことにミッジは映画の画面にほとんど登場しません。というのも、ミッジが映りそうになる度にカメラが動き、彼女は画面から消えてしまうのです。ナレーター曰く、ミッジはバービーランドでは「奇妙すぎる存在」なのだといいます。スーパーの棚から排除されてしまったミッジは、同様に映画の画面からも排除されてしまっているのです。

10代など若すぎる女性の妊娠は良くない、だとか、シングルマザーは良くない、などといった妊婦のミッジに寄せられた批判は、未だに世の中に根強く残っている考え方です。では、それを防ぐための性教育は十分にされているのでしょうか。臭い物に蓋をするように、ダメなものはダメ、と若者が正しい知識を身に着けることすらも拒絶してしまっていないでしょうか。

そもそも、子供を持つか持たないか、子供を持つならどのタイミングで持つかは、個人の自由で決められるべきもので、誰かに決められるものではありません。このような女性の身体にまつわる権利のことを、近年ではリプロダクティブ・ヘルス／ライツと呼んで、議論する動きが広まっています。

ただ「不快だから」「奇妙だから」という理由で嫌煙するのではなく、すべての性の人が、女性の身体の権利について正しい知識を身に着けようとすることは大切なことです。映画『バービー』でことごとく排除されるミッジに違和感を覚える。まずはそこから始めてみるのはいかがでしょうか。

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