映画『バービー』は女子向け映画?
ピンクでキラキラな映像に笑顔はじけるバービー達の姿から、映画『バービー』を「女子向け映画」だと思っている人は、少なくないでしょう。バービー人形が女児向け玩具であり男性にはなじみが薄い、という理由で女性向けの作品だと考える人もいるかもしれません。また、「フェミニズム映画」だと言われることが多いのを理由にそう考える人も少なくないのではないでしょうか。
結論から言うと、『バービー』はすべての性の人々が鑑賞できる作品です。今作はバービーというキャラクターの映画です。しかし同時に、ケンというキャラクターについて考える作品でもあります。そして、バービーもケンも人間ではなくただの人形です。なので、どちらも女性でも男性でもありません。
出演者を見ても、男性の方がなじみのある顔ぶれが多く、親しみやすいかもしれません。なぜなら、主演のマーゴット・ロビーをはじめとして、比較的男性ファンの多いアメコミを題材とした映像作品で活躍する俳優陣が多く出演しているからです。
ケンって誰?
そもそも、ケンについて深く考えたことがある人はどれくらいいるのでしょうか?
バービーのデビューから2年後となる1961年にケンは登場しました。バービーの「永遠のボーイフレンド」として誕生したケン。ケンは結婚することもなければ父親になることもありません。ケンはあくまでもバービーの「永遠のボーイフレンド」であり、バービーの「オマケ」にすぎなかったのです。
ケンの「オマケ」扱いは実際の売り上げでも顕著に見て取れます。2017年の発表では、ケン人形の売上はバービー人形の売り上げの約7分の1でした。
映画『バービー』で典型的なバービーと行動を共にするケンを演じたライアン・ゴズリングは、ケン役を引き受けた理由として、バービー人形で遊んでいる自分の娘たちにケン人形のありかを尋ねたことがきっかけとしながら、こう語っています。 「ケンを見つけたとき、人形はうつぶせになって外の泥だまりに顔を突っ込んでいる状態でした。隣には潰されたレモンがありました。その時に、『この男の物語を誰かが語らないと』って感じだったんです」
ケンと「有害な男らしさ」
現実世界と同様に、映画のケンも、バービーの「オマケ」扱いを受けています。そんな自分の扱いに疑問を抱いていたケン。しかし、人間の世界で初めて女性に頼られたことに彼は喜びを感じます。バービー達が世界を回すバービーランドとは違う、男性が世界を回す現実世界との出会いは、ケンを変えてしまいます。「オマケ」扱いから脱したいケンは、男社会で規範とされる男性像に憧れを抱きます。
映画でケンが憧れる男性像は、しばしば「有害な男らしさ」と呼ばれるものでした。
長らく「オマケ」扱いをされていたケンは、確かに幸せではありませんでした。自分には何の力も無い、と苦しんでいました。そんな彼に、男社会で力を持った男性像は魅力的に思えたのでしょう。ですが、その規範にはまることで、本当に幸せになれるのでしょうか?「男らしく」いることは、時として男性を苦しめることにはならないのでしょうか?
映画『バービー』でケンと共に、有害な男らしさや男社会で生きる男性の幸せや辛さについて考えてみるのも、良いのではないでしょうか?
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1回目の記事はこちら!https://knotitia.com/archives/2350
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参考資料
Ken’s Journey in Barbie Is a Story About Male Fragility | Time
Ryan Gosling on Stepping Away From Hollywood and Playing Ken in ‘Barbie’ | GQ
多様化するバービーの恋人ケン──「イエス、ウィー・ケン!」 | GQ JAPAN
Toxic masculinity(有害な男らしさ)とは・意味 | 世界のソーシャルグッドなアイデアマガジン | IDEAS FOR GOOD
黒木りりあ