日本人の知らないヨーロッパ!【モルドバ編】後半

文責:カジヤマシオリ


前半では、日本人になじみのないヨーロッパの国「モルドバ」をデータや歴史を中心に紹介しましたが、それだけではモルドバの様子をイメージするのは難しいかもしれません。

私も、モルドバを実際に訪れることで気づいたことがいくつもあります。今回は、私が実際に訪れたモルドバをお伝えします。

 

□農業大国で暮らす人々の日常

 

振る舞われた料理と白ワイン

モルドバは農業大国です。モルドバの経済を支える重要な産業のひとつで、酪農や耕作、ワインづくりなどがさかんです。

首都のキシナウには人や大きな建物が集まりますが、1時間ほど車を走らせれば一面が大草原。オーチャード(ランの一種)やアプリコット、ぶどうなどの畑が広がります。モルドバと人々の様子は、この雄大な自然なしでは語れません。

放牧中の牛の群れが道路を横断していたり、馬車とすれ違ったりしたこともあります。

日本で暮らしていると、こんな光景に出会うことはそうそうありません。

モルドバで暮らす知人夫婦は、キシナウ郊外に家を建て、自給自足の生活を送っています。お宅に招かれた際、自宅の倉庫に自ら育てたフルーツをたっぷり使ったジャムやコンポート(フルーツのシロップ漬け)の瓶を見せてもらいました。知人夫婦の育てたアプリコットやラズベリーはみずみずしく、モルドバの豊かな自然を味わうことができました。

ワインづくりがさかんなモルドバでは、自宅で育てたぶどうを使って自家製のワインを作ることも珍しくありません。繊維や皮が細かく沈殿しているのも、自家製のワインならではです。

現地の一般家庭にお呼ばれしたときには、必ずといってもいいほど自家製のワインが振る舞われました。休日には、昼間から自家製のワインを楽しむことも。モルドバの人々は、無類のワイン好きが多いのです。

 

□信心深く、心の優しいモルドバの人々

 

クルキ修道院(筆者撮影)

モルドバ人の多くは、キリスト教徒です。日本の九州よりも少し狭いくらいのモルドバ国土に、大小100以上の教会があります。教会に集い、聖歌を歌い、祈りを捧げるのがモルドバの人々の日常です。

中には、人々にとって特別な教会もあります。キシナウ郊外にあるクルキ修道院もそのひとつです。18世紀に建てられた由緒ある教会ですが、第二次世界大戦中に起きた火事で貴重な美術品が破壊されてしまいました。さらに、4つあった教会の鐘のうち2つも戦火で失われてしまいました。戦後しばらくは精神病院として使われ、建物の劣化も進んでしまったのです。大規模な修復をし、教会としての機能を取り戻したのはごく最近のこと。昔の美しい姿を取り戻したクルキ修道院は、モルドバの人々にとって「復興」や「希望」のシンボルです。

また、食事の前には家族全員が立ち上がり、神に祈りを捧げます。その締めくくりに、心臓の前で十字を切り、感謝を示すのが習慣です。一般家庭にキリストやマリアの小さな彫刻や絵画が飾られていることも珍しくありません。人々の信心深さを知ることができたのも、実際にモルドバを訪れたからこそです。

信心深いモルドバの人々は、親切で優しい人が多いのも特徴のひとつ。私のような見知らぬ日本人が訪ねてきても、快く出迎えてくれました。行く先々で自家製のワインをごちそうになり、たくさんのお土産を持たせてくれました。

モルドバの人々の多くが、日本に対して悪いイメージを持っていなかったのも、フレンドリーに接してもらえた理由のひとつかもしれません。日本に興味を持つモルドバ人は多いものの、現地では日本人どころかアジア人すらなかなか見かけません。「生まれて初めて日本人と会った」と言われることもよくありました。だからか、日本に関する質問に一生懸命答えると、より距離が縮まったように感じます。

 

□「ヨーロッパ最貧国」の一面

 

ブランコで遊ぶモルドバの子ども(筆者撮影)

ヨーロッパで最も経済力の低い国のひとつであるモルドバ。そこで暮らす子どもたちとも触れ合う機会がありました。決して豊かとはいえない生活でも、私の出会った子どもたちは元気よく笑顔で暮らしていました。見慣れぬ日本人に、最初は怪しむような表情をしていても、お絵描きや折り紙で一緒に遊べばすぐに心をひらいてくれました。とはいえ、日本のような医療制度がないからか、虫歯だらけの子どももよく見かけました。

 

怪我や病気をすることなくモルドバでの旅を終えることができましたが、全く危険を感じなかったわけではありません。イースター休暇中のモルドバ大学を訪問した際には、大学構内にいた野犬数匹に追いかけられました。野犬の鳴き声が響く構内をひたすら走り、なんとか事なきを得ました。構内を出ると野犬は追ってきませんでしたが、そのときは命の危険を覚悟しました。野犬との遭遇はこれまでに経験がなかったので、モルドバは決して安全とはいえない国なのだと実感したところもあります。

1991年の独立後、新しい街並みになりつつある首都キシナウでも、荒廃とした土地や建物をところどころで見かけました。きちんと管理している様子はなく、中には野良犬のすみかや不良のたまり場になっているところも。旧ソ連時代の建物も残されています。

観光客が少ないからか、スリや詐欺の標的にはなりませんでしたが、日本にいるときのような安心感はありませんでした。

乗馬体験をした筆者

私がモルドバを訪れたのは「ヨーロッパ最貧国」というのが本当なのか、自分の目で確かめたかったからです。これまで2~3年ほど、モルドバの女性からインターネットで英会話レッスンを受けています。いつも朗らな笑顔で、英語が下手な私に根気強く指導してくれる「憧れの女性」です。あわせて、モルドバのこともたくさん教えてもらいました。そんな彼女のいるモルドバが「ヨーロッパ最貧国」とは到底思えなかったのです。

データや歴史だけでなく、実際に訪れてみても、モルドバは日本と全く違う国なのだと感じました。同時に、日本での生活にはない自然の恵みや人々の温かさ、信心深さに触れることができました。

外の世界を覗くことは、視野を広げるいい機会になります。私が伝えたモルドバの人々の生活を通して、自身の生活や社会と比べるなどして考えてみるのはいかがでしょうか。

 


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