音のない世界に広がるエンタメのバリアフリー化

写真はイメージ、Photo by Muyuan Ma on Unsplash

アメリカ時間2023年2月12日、米国国内最大のスポーツイベントであるスーパーボウルが開催されました。スーパーボウルとはその年のアメリカンフットボールの王者を決める大会です。試合だけでなくハーフタイムに行われる音楽パフォーマンスも毎年注目されています。 今年は1.13億人が見たとされています。

この日、最も注目を集めたのが手話通訳者のジャスティナ・マイルズさん。マイルズさんはハーフタイムショーの手話通訳などを担当しました。単純に歌詞を通訳するだけでなく、リズムに乗って表情や仕草を変える彼女のパフォーマンスに、SNSを中心に多くの人が惹きつけられました。

アメリカで広がる手話文化

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アメリカでは近年ライブパフォーマンスでの手話通訳者が話題になることが少なくありません。聴覚障害の人にも音楽体験を楽しんでもらえるようにと、大型の音楽フェスティバルでの手話通訳者の起用が増加しているからです。また、アーティストの単独コンサートでの起用も増えてきています。

また、アメリカでは演技の世界でのろう者の活躍の場も広がっています。2022年に開催された映画の祭典アカデミー賞では、俳優のトロイ・コッツァーさんが助演男優賞を受賞しました。コッツァーさんはろう者で、ろう者の男性俳優がアカデミー賞を受賞するのは史上初でした。コッツァーさんが出演した『コーダ あいのうた』はその年のアカデミー作品賞も受賞しました。『コーダ あいのうた』に出演したろう者の俳優はコッツァーさんだけではありません。1987年のアカデミー主演女優賞を最年少かつろう者として初めて受賞したマーリー・マトリンさんや、ダニエル・デュラントさんも主要人物として作品に出演していました。アメリカでもまだ珍しかった、ろう者がろう者を演じるという作品のこだわりが認められたのです。

ちなみに、コッツァーさんは2023年のスーパーボウルで国歌斉唱を手話で担当しました。

イギリスで実施されているアクセサビリティの向上

イギリスのロンドンにあるサッカーの聖地ウェンブリー・スタジアムは、すべてのコンサートにて手話通訳をサービスとして提供することを2021年に発表しています。

英国出身のバンドであるコールド・プレイはすべての公演にて聴覚に障害のある方には2人の手話通訳者とSUBPACsを提供することを2022年に発表しました。SUBPACsというのは音楽の振動を伝えるベストで、これを身に着けることで音楽を身体で感じることができます。

また、ロンドンにある大きな劇場では定期的に手話通訳つき公演を実施しています。ロンドンの劇場全体で考えるとほぼ毎週、何かしらの人気の舞台やミュージカルを手話付きで鑑賞することができることになります。同様に、字幕付きの公演も定期的に開催されています。

日本でのエンターテイメントのバリアフリー化

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残念ながら、日本ではまだエンターテイメント界においての手話通訳等はあまり広がっていないのが現状です。コンサートで手話通訳者が起用されるケースはまだほとんどなく、舞台でも大きな公演で手話通訳者が起用されることもほぼありません。2021年に開催された東京オリンピックの開会式では、会場には手話通訳者がいて、会場のスクリーンにも字幕と手話通訳が映されていたにもかかわらず、テレビ中継では手話通訳が表示されなかったため、落胆の声が大きく上がりました。

また、日本では手話だけでなく字幕についても課題が残っています。日本のテレビでの字幕普及率はNHKでは85-90%ほど、民放では70%前後に留まっています。字幕表示の技術が異なっているとはいえ、アメリカでは英語やスペイン語での字幕表示が義務付けられています。イギリスの公共放送局BBCでは7つすべての放送局で100%字幕付き放送を実施しているだけでなく、ビデオ・オンデマンド・サービスでも字幕付きでコンテンツを提供しています。

これからのこと

日本のエンターテイメント界でも少しずつ、改善は始まっています。例えば、2022年に大ヒットを記録したテレビドラマ『silent』や2023年に放送された『星降る夜に』では、主要キャラクターではないもののろう者のキャラクターをろう者の俳優が演じていました*1

また、2021年5月に障害者差別解消法が改正され、合理的配慮が民間企業でも法的義務となりました。この改正法は2024年6月4日までに施行される予定となっています。

日本国内での聴覚に障害のある方へのサポート意識も高まってきています。一日でも早くに少しでも多くの人々が等しくエンターテイメントを楽しむ未来を創るべく、意識して日々を歩んでいきましょう。

*1 『silent』には那須映里さんと江副悟史さん、『星降る夜に』には寺澤英弥さんが出演。

参考資料

コンサート手話通訳士を日本でも導入求める動き、海外ではどう?【特集】 (1/4) – フロントロウ | 楽しく世界が広がるメディア (front-row.jp)

スーパーボウルで手話通訳をした大学生「ゾクゾクする」ほどすごいパフォーマンスが脚光浴びる | ハフポスト WORLD (huffingtonpost.jp)

https://www.huffpost.com/entry/justina-miles-super-bowl-sign-language-asl-performances_n_63f3c26ce4b04ff5b48549dd

ろう者の俳優トロイ・コッツァーが助演男優賞受賞。監督に「いつまでもハリウッドに残る橋になる」と感謝【アカデミー賞2022】 | ハフポスト アートとカルチャー (huffingtonpost.jp)

映画『Coda コーダ あいのうた』公式サイト (gaga.ne.jp)

https://www.wembleystadium.com/news/2021/Sep/16/Wembley-Stadium-commits-to-BSL-Interpretation-of-all-concerts

ColdplayさんはTwitterを使っています: 「We want our shows to be inclusive & accessible. For D/deaf & Hard-of-hearing guests, we provide SUBPACs (wearable, bass-delivering vests) + 2 sign language interpreters. If we’re playing near you & you’d like to watch with the interpreter & SUBPACs, email access@coldplay.com https://t.co/iGZvkNYyj3」 / Twitter

BSL Interpreted (officiallondontheatre.com)

五輪開会式のNHK生中継、会場にはいたのに手話通訳を映さず 聴覚障害者が改善要望:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)

字幕番組率(令和3年度実績):NICT

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%82%BA%E3%83%89%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%97%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3

ドラマ「silent」出演の“ろう者”語る 題材“音のない世界”に期待する事とは【岡山発】 | nippon.com

黒木りりあ 登録者

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