文責:高橋綾子
キーワード:マララ・ユスフザイ
女子の就学を認めないタリバン政権下のパキスタンで女子が教育を受ける権利を主張したことで15歳の時、タリバンによって銃撃される。頭部に銃弾を受けた。回復後も全ての子供たちの教育を受ける権利について世界に訴え続けている。2014年ノーベル平和賞を受賞。
タリバンに撃たれた少女
17歳で史上最年少のノーベル平和賞受賞者となったマララ・ユスフザイさんを知っていますか?
90年代アフガニスタンの内戦時に組織された武装勢力「タリバン」は、その後各地に侵出し、支配した土地でイスラムの教義に殉じるという主張の下、女子の就学や就労を禁じています。タリバン政権下のパキスタン北部のスワート渓谷からブログによって不自由な生活と「女の子にも学ぶ権利を」と訴え続けていた彼女は、15歳でタリバンによって襲撃され、瀕死の重症を負いました。イギリスで治療を受け、奇跡的に回復を遂げた彼女はその後も世界中の子供達に教育を、特に女子の教育について訴える活動を続けています。彼女の自叙伝は『わたしはマララ』というタイトルで出版され、2015年には同名の映画も公開されました。
「マララ」とは彼女が属しているパシュトゥン族の英雄として人々に愛されている少女の名前から採られています。もともと男尊女卑の傾向が強かったパシュトゥン社会の中で、彼女の父親は「この子は特別な子」としてマララさんをのびのびと教育したそうです。
女子に教育はいらない?
「女の子に学問はいらない」という考え方は、古くから世界の各地に見られました。「三従」という言葉を知っているでしょうか。「女性は幼い時は父親に従い、結婚したら夫に従い、年老いて夫が亡くなったら子供に従うべき」という儒教や仏教の思想から生まれたとされる言葉です。この「三従」が日本の女子教育の大切なポイントの一つとされていた時代もありました。
教育は新しい知識を与えると同時に、受けた人のものの考え方を形作ります。自分の判断で物事を決定したり、自分の考えを主張できるようになるために教育は不可欠です。女性は一生、男性に従って生きるべきとされる社会では、男の子と女の子を同じようには教育しないという流れが生まれるのかも知れません。
女の子が教育を受けると…
女子が教育を受けることによってどんなメリットが生まれるのでしょうか。
教育で得た知識や技術を求められる職業に就くことで将来の収入が増えることが期待されます。教育にはコストがかかりますが、その分将来的には安定した収益を得られる可能性が高まるのです。教育のメリットは教育を受けた人だけのものではありません。女子に限ったことではありませんが、教育を受けた人々が増えることは社会にも安定をもたらします。経済の発展と治安の維持には優れた人材が不可欠です。女性が力を発揮できるようになればそれらは、より速く達成できるでしょう。
また、女子への教育は更に次の世代の子供たちにも影響を与えます。ユネスコによると中等以上の教育を受けた母親の子供は、教育を受けなかった母親の子供に比べて5歳未満で亡くなる率が半分に減少するそうです。計画的な出産や衛生の知識は次世代の命を守ることにも繋がるのです。
そして、何よりも学ぶことで得られる喜びは大きなメリットではないでしょうか。学ぶということは楽しい!のです。『わたしはマララ』には、学校生活の楽しさについて友達とふざけあったことと共に、学ぶということそのものの喜びが生き生きと描写されています。初めて何かを知った時や、わからなかったことがわかった時、嬉しい楽しい気持ちになった経験が皆さんにもあるのではないでしょうか。「知る」ということは性別や年齢に関わらず人間の楽しみなのです。
日本では…
現在の日本では女の子が勉強したために命を狙われることはまずありえませんね。例えば政治家が「三従」のような考え方を公の場で主張したら、恐らく大問題になるでしょう。
平成28年度の文部科学省による『子供の学習調査』の「子供の学習費調査」を見ると、学校以外での塾など、いわゆる「勉強」にかけられているお金は女子より男子の方が高い傾向があるようです。反対に「勉強」以外の「習い事」では女子のいる家庭が払う金額は男子のそれより高額な場合が多いことも読み取れます。
更に29年度の内閣府男女共同参画局の『男女共同参画白書』によると女子の大学進学率は上昇傾向にあるそうです。しかし同時に高等教育の女性教育者は男性に比べてまだまだ少ないとも指摘されています。幼稚園や保育園では先生はほぼ女性です。小学校でも女性の先生が男性の先生に比べて特別少ないイメージはないようです。しかし中学、高校と進むにつれ女性教員の数は次第に減ってゆきます。大学(短大を除く)の教員や研究職ではその差は更にはっきりするとも書かれています。
これ等のデータは一体何を意味しているのでしょう。日本の社会は男子にも女子にも等しく教育を受ける権利を保障しているはずです。しかし制度の問題ではない、目に見えない人々の意識がまだ男子と女子の教育に差を産み出していることが見て取れるのではないでしょうか。
「知恵という武器を持ち、世界を変えよう」とマララさんは訴えます。教育によって知恵という武器を手に入れれば、皆さんにも世界は変えられるのです。
マララ基金HP https://www.malala.org
文部科学省 「28年度 子供の学習費調査 結果の概要」
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa03/gakushuuhi/kekka/k_detail/1399308.html
内閣府 男女共同参画局 「男女共同参画白書 29年度版 第一節 教育をめぐる状況」
http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h29/zentai/html/honpen/b1_s05_01.html