「虐待サバイバーだから撮りたい」田中ハルさん

撮影:田中ハル

虐待サバイバーという言葉を知っていますか?

サバイバーとは、英語でsurvivor。「生き残った人・助かった人」という意味です。ガンや暴力被害など、苦しい状況から立ち上がった人が自らをそう表現します。元がん患者・元暴力被害者、という表現をするよりも、とてもポジティブで強く、格好いい名称だと思いませんか?

KnotitiA.comでは、そんな虐待サバイバーのひとりで、『虐待サバイバー写真展』という取り組みをする、田中ハルさんを取材しました。田中さんは自身も虐待サバイバーです。なぜこの「虐待サバイバー写真展」の取り組みを始めたのでしょうか。


虐待サバイバーの人は多くの場合、幼いころの虐待を忘れてしまう事があります。これは脳の作用によるもの。私たちの脳は、とてもつらい経験をした時、時間の流れとともにそのつらい記憶に鍵をかけて閉じ込める、という機能があります。しかし何かのきっかけでこの記憶は脳が鍵を開けてしまう事があります。これが「フラッシュバック」と呼ばれるものです。人によって鍵が開く年齢は様々。30歳、40歳になって初めて開く人もいます。10代のうちに開く人もいます。

田中さんは現在41歳。5才から18歳頃まで虐待を受け、初めてのフラッシュバックは今年の2月でした。辛かった思い出が一気に出てきてとても苦しくなってしまったそうです。そんな時出会ったのが今一生さんの手がけた『日本一醜い親への手紙 そんな親なら捨てちゃえば』という本でした。

サバイバーが自分と向き合える場を作りたい!

クリックでamazonページに飛びます

この本は今一生さんが制作に携わった、虐待サバイバー100人が親に宛てた手紙をまとめた本です。田中さんはこの本を読むことで自身に向き合う努力を始めました。しかし未だに全てを読み切れていないそうです。田中さんの言葉を借りると「しんどくなってしまう、けど読み進めて自分と向き合いたい」と言っていました。ツイッターで今一生さんに連絡をとり、「このつらい気持ちをどうすればいいか」を相談した田中さんは今さんから「趣味の写真を活かして、向き合ってはどうか」と言われすぐ行動に移し、サイトを立ち上げました。

2月に自覚してから約1ヶ月。とても早いですね!

田中さんが虐待サバイバー写真展にかける思い、それは「サバイバーの方が写真展を通じて希望ある未来に進めるように」、だそうです。笑えなくなってしまった人、向き合うことが出来ない人、胸の内を吐き出したことがない人。田中さんは散歩をしながら、お喋りをしながら素の素敵な表情を写しとっていました。まだ応募人数は少ないですが、ペンネーム等で参加することもできます。これから増えてくれれば良いな、と感じているそうです。

虐待の種類や状況、向き合い方は人生の様に十人十色です。病院に行かず、自力で向き合うタイプの方もいますが、田中さんはカウンセリングを利用することで向き合っているそうです。

それでも苦しみは大きなもので、パートナーに「夜寝ていて苦しそうにしている時がある」「寝言で助けて、と叫ぶことがある」などと教えられたそうです。

他の家族や第三者に助け出され気づけた人もいれば、未だに虐待だったと気づかない人もいます。乗り越える事ができるまでの時間も様々です。けれど皆社会の中で生きているし、活躍することができる。そのきっかけとして田中さんは自分の作った写真展を利用してほしいと話していました。

写真には力がある!

撮影:田中ハル

KnotitiA.comの代表である私も、虐待サバイバーです。私が田中さんのことを知ったのも、『虐待サバイバー写真展』を始めると決めた田中さんの被写体募集のツイートを見たからでした。

被写体第一号になりましたが、田中さんも私も他のサバイバーの方に会うのは初めてでした。

どれだけ苦しい経験をしてきたのか、それは人によって様々で、どちらのほうが、と比べることは出来ません。けれど趣味などの好きなものについて話す時、人は自然と笑顔になってしまうものではないでしょうか。私が大爆笑しているこの写真は何の話をしていたのか、残念ながら忘れてしまいましたが、とても楽しそうにしているこの写真が気に入っています。取材を終わるころには撮られる事が楽しくなってしまう、魔法のような時間でした。

写真を通して他のサバイバーと繋がる事ができる、と言うのはなかなかない機会です。写真展の最後に必ず設定している「手を差し出す」ポーズ。この手からは次の人へ勇気のバトンを渡す救いの手をのばす、そんな想いを読み取ることができるはずと考えています。

田中ハルさんからのメッセージ

発達障害、精神障害、虐待、イジメ、LGBTと、人生ハードモードですが、生きています。

そして今、割と幸せです。

色んな困難がありましたが、乗り越えることはせずに、ほとんど逃げて来たように思います。祖母や友人やインターネットやマンガや写真など。全てこれらに助けてもらいながら逃げてきました。その結果、助けてくれたもののありがたみ、助けてくれた人のありがたみを感じられました。

困難から逃げてもいいんです。乗り越えなくてもいいんです。

どうか逃げて生き延びてください。

生きてさえいれば、そこからの可能性は無限です。


参考URL

『虐待サバイバー写真展』https://kojikoji.themedia.jp/

参加者募集はこちらから https://kojikoji.themedia.jp/pages/1744877/page_201803140648

田中ハルさんのツイッター https://twitter.com/ka2532

『STOP! 子ども虐待 100 プロジェクト』 https://stop-childabuse-project.blogspot.jp/

樋口夏穂 登録者

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA